いちごは日本の果樹栽培において重要な作物の一つです。その鮮やかな赤色と甘い香り、そして独特の食感は多くの人に愛されています。いちご栽培は適切な技術と知識があれば、比較的小規模な土地でも収益性の高い農業経営が可能であるため、新規就農者にとっても魅力的な選択肢となっています。
この完全ガイドでは、いちご果樹農家を目指す方、または既にいちご栽培に取り組んでいる方に向けて、栽培の基礎から経営まで幅広く解説します。
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いちご栽培の基礎知識
いちごの特性
いちごは多年生のバラ科植物で、以下のような特性があります。
- 短日性植物（日照時間が短くなると花芽が形成される）
- 比較的冷涼な気候を好む
- 水はけの良い土壌を好む
- 連作障害が起きやすい
主な品種
日本で栽培されている主要ないちご品種
| 品種名 | 特徴 | 主な栽培地域 |
|---|---|---|
| とちおとめ | 酸味と甘みのバランスが良い | 関東〜東北 |
| あまおう | 大粒で糖度が高い | 九州（福岡） |
| さがほのか | 適度な甘さと酸味、日持ち良好 | 九州（佐賀） |
| 紅ほっぺ | 濃厚な甘み、果実が硬め | 静岡 |
| スカイベリー | 超大粒、芳醇な香り | 栃木 |
| やよいひめ | 早生品種、食味良好 | 全国 |
栽培カレンダー
標準的ないちご栽培の年間スケジュール：
- 5〜6月：親株の養成
- 6〜7月：ランナー発生、子苗の育成
- 8〜9月：定植準備、苗の仮植え
- 9〜10月：本圃への定植
- 10〜11月：花芽分化、生育管理
- 12月〜翌5月：開花、結実、収穫
- 5〜6月：株の更新または廃棄
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栽培方法と技術
栽培システム
1. 土耕栽培
- 特徴：従来型の方法、地面に直接定植
- メリット：初期投資が比較的少ない
- デメリット：腰への負担大、土壌病害のリスク
2. 高設栽培
- 特徴：腰の高さに設置した培地でいちごを栽培
- メリット：作業効率向上、腰痛リスク軽減、土壌病害対策
- デメリット：初期投資が高い、水管理が繊細
3. 養液栽培（水耕栽培）
- 特徴：土を使わず、養分を含んだ水で栽培
- メリット：環境制御が容易、収量増加の可能性、土壌病害リスク排除
- デメリット：技術習得が必要、初期投資・維持費が高い
環境管理技術
温度管理
- 生育適温：昼間18〜25℃、夜間8〜10℃
- 花芽分化適温：8〜15℃
- 結実適温：15〜23℃
湿度管理
- 適正湿度：60〜80%
- 高湿度時の対策：換気、暖房機の利用
- 低湿度時の対策：灌水、通路散水
CO2管理
- 最適濃度：800〜1000ppm
- 施用時間：早朝〜午前中が効果的
光環境管理
- 補光の利用：LED、蛍光灯などによる日長調整
- 遮光の利用：強光時の温度上昇防止
栽培管理作業
定植
- 培地（土壌）の準備：pH調整、施肥
- 株間：20〜25cm、条間：25〜30cm
- 定植深度：クラウン（株元）が土壌面と同じ高さ
摘葉・ランナー切り
- 古葉や病害葉の除去
- 不要なランナーの切除
摘花・摘果
- 初期の花の除去（株の充実のため）
- 形の悪い果実や過剰な果実の摘果
病害虫防除
主な病害：うどんこ病、灰色かび病、炭疽病 主な害虫：ハダニ、アブラムシ、コナジラミ
対策：
- 適切な環境管理（換気、温湿度）
- 予防的薬剤散布
- 生物農薬の利用（天敵など）
- IPM（総合的病害虫管理）の導入
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いちご農家の日々の生活
収穫期（12月〜5月）の一日
早朝（5:00〜7:00）
- ハウス内の温度・湿度チェック
- 暖房機の調整
- 収穫準備
午前（7:00〜12:00）
- 収穫作業
- いちごの選別・パッキング
- 出荷準備
昼食・休憩（12:00〜13:00）
午後（13:00〜17:00）
- 残りの収穫・選別作業
- 栽培管理（摘葉、摘果など）
- 出荷作業
夕方〜夜（17:00〜19:00）
- ハウス内環境の最終チェック
- 翌日の準備
- 事務作業（記録、経理など）
育苗期（6月〜9月）の一日
早朝〜午前（6:00〜12:00）
- 苗床の管理（灌水、遮光）
- ランナー誘引・固定
- 親株の管理
昼食・休憩（12:00〜13:00）
午後（13:00〜17:00）
- 苗の管理（摘葉、消毒など）
- 定植準備（土壌消毒、畝立て）
- ハウス整備
夕方（17:00〜19:00）
- 灌水作業
- 翌日の準備
- 事務作業
農閑期（5月下旬〜6月）の活動
- ハウスの片付け・メンテナンス
- 設備の点検・修理
- 次期作の計画立案
- 研修・視察
- 休暇
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新規就農と研修制度
新規就農の流れ
- 情報収集と基礎知識の習得
- 農業書籍・専門誌の購読
- 農業セミナーへの参加
- 先進農家の視察
- 研修制度の活用
- 農業大学校や研修施設での学習
- 先進農家での実地研修
- 経営計画の策定
- 事業計画書の作成
- 資金計画の立案
- 農地・施設の確保
- 農地の取得または賃借
- ハウスなどの施設整備
- 就農開始
- 生産開始
- 販路の確立
主な研修制度
公的研修制度
- 農業次世代人材投資事業（旧青年就農給付金）
- 要件：50歳未満の新規就農者
- 支援内容：最長2年間の研修期間中に年間最大150万円の資金を支給
- 都道府県立農業大学校
- 期間：1〜2年間
- 内容：座学と実習を組み合わせた専門教育
- 農業公社・JA等による研修
- 期間：数ヶ月〜1年程度
- 内容：実践的な栽培技術の習得
先進農家での研修
- 農業法人等での雇用研修
- 期間：1〜3年程度
- 特徴：働きながら技術を学ぶ
- 農家子弟研修（親元就農）
- 特徴：家族経営の中で技術・経営を学ぶ
研修後のサポート体制
- 経営開始型支援
- 独立・自営就農する場合、年間最大150万円を最長5年間給付
- 制度資金
- 青年等就農資金：無利子融資（上限3,700万円）
- スーパーL資金：低金利融資
- 技術・経営サポート
- 普及指導員によるアドバイス
- JAによる栽培指導
- 先輩農家によるメンター制度
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経営と収入
初期投資
標準的な10aあたりの初期投資の目安：
| 項目 | 費用（万円） |
|---|---|
| ハウス本体 | 600〜1,200 |
| 高設栽培設備 | 300〜500 |
| 暖房機 | 150〜300 |
| 灌水設備 | 100〜150 |
| 環境制御装置 | 50〜200 |
| その他資材 | 50〜100 |
| 合計 | 1,250〜2,450 |
年間経営収支（10aあたりの目安）
収入
- 平均収量：3〜4t/10a
- 平均単価：1,500〜2,000円/kg
- 総売上：450〜800万円/10a
支出
- 種苗費：30〜50万円
- 肥料費：20〜40万円
- 農薬費：15〜30万円
- 光熱費：50〜100万円
- 資材費：30〜50万円
- 減価償却費：100〜150万円
- 人件費：30〜150万円（雇用規模による）
- その他経費：30〜50万円
- 総支出：305〜570万円
収益
- 所得：145〜230万円/10a （経営規模に応じて増減、30a規模なら435〜690万円）
規模別経営モデル
小規模家族経営（10〜15a）
- 家族労働中心
- 年間所得目標：300〜450万円
- 販売方法：直売所、インターネット販売中心
中規模経営（20〜30a）
- 家族+パート雇用
- 年間所得目標：600〜900万円
- 販売方法：市場出荷+直売
大規模経営（40a以上）
- 常時雇用あり
- 年間所得目標：1,000万円以上
- 販売方法：市場出荷、業務用契約栽培
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栽培計画と事業戦略
品種選択と作型計画
品種組み合わせの考え方
- 早生品種+中生品種+晩生品種の組み合わせ
- 地域特性に合った品種選択
- 販路に合った品種選択（市場向け、直売向け）
作型の種類
- 促成栽培
- 定植：9月中旬〜10月
- 収穫：12月〜5月
- 特徴：最も一般的な作型
- 半促成栽培
- 定植：10月下旬〜11月
- 収穫：2月〜6月
- 特徴：暖房費を抑えられる
- 四季成り栽培
- 定植：3月〜4月
- 収穫：5月〜11月
- 特徴：夏秋期に収穫可能
販売戦略
販売チャネル
- 市場出荷
- メリット：大量販売可能、安定取引
- デメリット：価格決定権が弱い
- 直売所
- メリット：高単価販売、消費者との交流
- デメリット：販売量に限界
- インターネット販売
- メリット：高単価、全国展開可能
- デメリット：梱包・発送の手間
- 観光農園（いちご狩り）
- メリット：高付加価値、直接現金収入
- デメリット：人員確保、接客スキル必要
- 契約栽培
- メリット：安定収入、計画的生産
- デメリット：価格固定のリスク
ブランド戦略
- 差別化ポイントの確立
- 特別栽培（減農薬・減化学肥料）
- 有機栽培
- 特徴的な品種
- 糖度保証
- ブランド構築方法
- ロゴ・パッケージデザイン
- SNS・Webサイトでの情報発信
- ストーリー性の構築
経営多角化
- 6次産業化
- いちごジャム、ドライフルーツなどの加工品製造
- カフェ・スイーツ店の併設
- 複合経営
- 他の作物との組み合わせによるリスク分散
- 季節に応じた労働力の平準化
- 体験事業
- 農業体験プログラムの実施
- 料理教室・加工体験の開催
近年、日本の米市場は価格高騰と供給不足の問題に直面しています。かつて「コメ余り」と言われた状況から一転し、今や消費者は高騰する米価格と向き合わざるを得なくなっています。この記事では、日本の米価格高騰の現状、その背景と原因、価格推移、流通の[…]
メリットとデメリット
いちご栽培のメリット
- 高収益性
- 単位面積あたりの収益性が高い
- 施設栽培により安定した収入が見込める
- 需要の安定
- 国産いちごの人気は高く、需要は安定している
- ギフト需要も多い
- 小面積から始められる
- 比較的小規模でも経営が成立しやすい
- 段階的な規模拡大が可能
- 技術による差別化
- 栽培技術の向上により品質・収量アップが期待できる
- 独自性を出しやすい
- 多様な販路
- 市場出荷、直売、観光農園など選択肢が多い
- インターネット販売に適している
いちご栽培のデメリット
- 高い初期投資
- ハウスや設備投資に多額の資金が必要
- 減価償却費の負担が大きい
- 労働集約的
- 収穫期の労働負担が大きい
- 熟練した作業が必要な場面が多い
- 高度な技術が必要
- 環境制御や病害虫対策に専門知識が必要
- 技術習得に時間がかかる
- 気象リスク
- 異常気象による影響を受けやすい
- 燃料費高騰のリスク
- 体力的負担
- 長時間の前かがみ作業（土耕栽培の場合）
- 早朝からの労働
はじめに：日本の米農業の現状 日本の米農業は長い歴史と伝統を持ち、国民の主食を支える重要な産業です。しかし、近年は農業従事者の高齢化や後継者不足、国際競争の激化など、様々な課題に直面しています。一方で、高品質な日本米への国内外の需要[…]
成功するためのアドバイス
技術面
- 基礎をしっかり学ぶ
- 研修制度を活用して基本技術を習得
- 栽培記録を細かくつけて経験を蓄積
- 継続的な学習
- 先進農家の視察
- 勉強会・研究会への参加
- 専門書や農業誌からの情報収集
- データに基づく管理
- 環境データ（温度・湿度・CO2等）の記録と分析
- 収量・品質データの活用
経営面
- 計画的な設備投資
- 段階的な投資計画
- 補助金・制度資金の活用
- 販路の複線化
- 複数の販売チャネルの確保
- リスク分散
- 経営管理の徹底
- 収支管理の徹底
- 労働時間の記録と分析
精神面
- 健康管理
- 無理のない作業計画
- 十分な休息の確保
- コミュニティ形成
- 同業者とのネットワーク構築
- 地域との良好な関係維持
- 長期的視点
- 短期的な困難に振り回されない
- 5年、10年の長期計画を持つ
概要 古古古米とは、収穫から3年が経過したお米のことを指します。収穫した年から年数を重ねる毎に「古」が増え、前年に収穫された米を古米、前々年に収穫された米を古古米（ここまい）、そして3年前に収穫された米を古古古米（こここまい）と呼び[…]
まとめ
いちご栽培は、高い初期投資や技術習得の必要性など、いくつかの課題はあるものの、適切な経営計画と栽培技術を持って取り組めば、非常に魅力的な農業経営となり得ます。小規模から始められること、多様な販路があること、そして何より消費者に愛される作物であることが大きな魅力です。
新規就農を検討している方は、この完全ガイドで紹介した様々な研修制度や支援策を活用し、段階的に準備を進めることをお勧めします。また、既にいちご栽培に取り組んでいる農家の方も、本ガイドを参考に自身の経営を見直し、さらなる発展につなげていただければ幸いです。
いちご栽培は単に作物を育てるだけでなく、その赤い宝石のような果実を通じて、消費者に喜びと感動を届ける素晴らしい仕事です。技術と情熱を持って取り組めば、必ず道は開けるでしょう。
「儲かる農業」とは、利益を上げるための効率的で持続可能な農業経営のことを指します。農業は自然環境や市場の変動に影響されやすいため、儲けるためにはいくつかの要素を工夫し、戦略的に取り組むことが重要です。以下のような方法やアイデアが「[…]
